偽りの仮面 第5話


「本当にやるのか?」
「ああ、これは好機だ」

偽ゼロが銀行の前に立つ姿を見つめながら、ゼロは言った。
いや、今はゼロの仮面を外しているから、ルルーシュが言ったと言うべきか。

「好機だと?どこにチャンスなどある?死にに行くようなものだ」

呆れを込めて忠告したが、その程度で考えを変えるような男では無い。
C.C.が危惧している事など、全て熟考した上で出した好機なのだろう。

「MISSION-T・Hを行う絶好の機会だ。何より、俺はここに、騎士団のアジトにいる」

ここは学園でも、クラブハウスでも、ナナリーの傍でもない。
今すぐにゼロとして動く事が出来るのだ。

「まさかとは思うが、あの偽物のために動くのか」
「まさか。あんな偽物のために命をかける理由など無い」

テーブルに置かれていた仮面を手に取り、不敵に笑いながら言った。金属音と共に仮面のギミックが作動し、美しい男の顔は、無機質な仮面の下に隠れた。

「あれが、枢木スザクでも同じ事は言えるのか?」

C.C.の指摘に、仮面で表情こそわからないものの、間違いなくゼロは反応を示した。

「あれが、スザクだとどうして解る」
「お前の反応を見れば解るさ」

平静を装っているが、間違いなく焦っている。
今すぐ駆け出したい気持ちを押さえていることぐらいわかる。
数百年を生きた魔女の目は、この程度では欺けない。

「あれがスザクかどうかなど、俺には解らないな」
「・・・そうか」

これも嘘だと見抜くのは簡単だった。
オレンジ事件もそうだったが、この男は、枢木スザクを救うためなら命がけの作戦も躊躇いなく決行する。
ナナリーのために命を使い、スザクのために命を賭ける。
馬鹿な男だと思いながら、C.C.はゼロの仮面に手を伸ばした。

「・・・何をする」

再び金属音が響き、無機質な仮面の下から、不愉快そうに目を眇めた美しい男の顔が現れた。時間が惜しいのに邪魔をするなと、その目が訴えていた。

「お前を死なせるわけにはいかない。私が行ってやるよ」

魔女はそう言いながら、純白の拘束衣を脱ぎ捨てた。




「・・・君は・・・」
「私では不服そうだな、枢木スザク」

戦後放置されたままとなっている、ゲットーの地下鉄跡で、C.C.は仮面を外し、偽ゼロと対峙していた。偽ゼロは、名前を呼ばれた事に僅かに反応を示したが、肯定も否定も返さなかった。

「・・・そうか、だから、トラックの上のゼロに違和感を感じたのか・・・」

あの恰好で来るのは彼だけだと思っていたが、そうか、影武者だったのかと、偽ゼロは一人納得したような顔をしていた。何より、担いで運んだ時の重さと感触も別人で、一体どういう事なんだろうと不思議に思っていたのだ。

「ゼロに伝えてくれないか、こんな危険な事はもうするなと」

本来であれば、この場で直接言いたかったのだが、仕方がない。

「あれを止めたければ、殺す事だ。そうでなければ止まらない。言葉で止まるほど、あれの憎しみも絶望も軽くはないこと、お前は知っているのだろう」
「・・・君がゼロを演じたのは、彼の指示?」

都合の悪い内容だったのか、言っても無駄と解ったのか、偽ゼロは話題を変えた。

「いや、あいつはまだ夢の中だ。私が変わるといっても聞かなくてな」
「・・・無事なんだろうね」
「後遺症も何も残らない、とても安全な方法だよ」

コードを使って、強制的に落としただけだからな。

「今どこに?」
「私たちの、部屋にだ」

C.C.は口角を上げてにやりと笑った。

「・・・ごめん、今よく聞こえなかったんだけど・・・」

スザクは、仮面越しでもわかるほどの動揺を示した。
だからC.C.は、わざと笑みを深めて言った。

「わ た し た ち の へ や で ね て い る」

ゆっくりと、言葉を紡ぐ。

「・・・・騎士団の、アジトという事か」
「アジトの、私とあの男の寝室だ」
「!?」
「私たちは、将来を誓い合った仲だからな」
「!?」

偽ゼロは、今までで一番の動揺を示した。
やはりそうかとC.C.は目を細めた。
この男・・・狙っていたな、あいつを。
男同士ではあるが、あいつは男の枠に入らない容姿の持ち主だ。この手の輩がいてもおかしくはなかったが、まさかあいつが心許している親友までそうだったとは。
だが、これで私の勝ちだ。とC.C.は思ったのだが。

「悪いけど、僕たちも将来は誓い合っている」
「!?」
「7年前の夏の日にね」
「!?」
「彼は、僕の・・・僕と、ナナリーだけのものだ」

この瞬間。
偽ゼロと影武者ゼロは、互いを敵と認識した。

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