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「本当にやるのか?」 「ああ、これは好機だ」 偽ゼロが銀行の前に立つ姿を見つめながら、ゼロは言った。 いや、今はゼロの仮面を外しているから、ルルーシュが言ったと言うべきか。 「好機だと?どこにチャンスなどある?死にに行くようなものだ」 呆れを込めて忠告したが、その程度で考えを変えるような男では無い。 C.C.が危惧している事など、全て熟考した上で出した好機なのだろう。 「MISSION-T・Hを行う絶好の機会だ。何より、俺はここに、騎士団のアジトにいる」 ここは学園でも、クラブハウスでも、ナナリーの傍でもない。 今すぐにゼロとして動く事が出来るのだ。 「まさかとは思うが、あの偽物のために動くのか」 「まさか。あんな偽物のために命をかける理由など無い」 テーブルに置かれていた仮面を手に取り、不敵に笑いながら言った。金属音と共に仮面のギミックが作動し、美しい男の顔は、無機質な仮面の下に隠れた。 「あれが、枢木スザクでも同じ事は言えるのか?」 C.C.の指摘に、仮面で表情こそわからないものの、間違いなくゼロは反応を示した。 「あれが、スザクだとどうして解る」 「お前の反応を見れば解るさ」 平静を装っているが、間違いなく焦っている。 今すぐ駆け出したい気持ちを押さえていることぐらいわかる。 数百年を生きた魔女の目は、この程度では欺けない。 「あれがスザクかどうかなど、俺には解らないな」 「・・・そうか」 これも嘘だと見抜くのは簡単だった。 オレンジ事件もそうだったが、この男は、枢木スザクを救うためなら命がけの作戦も躊躇いなく決行する。 ナナリーのために命を使い、スザクのために命を賭ける。 馬鹿な男だと思いながら、C.C.はゼロの仮面に手を伸ばした。 「・・・何をする」 再び金属音が響き、無機質な仮面の下から、不愉快そうに目を眇めた美しい男の顔が現れた。時間が惜しいのに邪魔をするなと、その目が訴えていた。 「お前を死なせるわけにはいかない。私が行ってやるよ」 魔女はそう言いながら、純白の拘束衣を脱ぎ捨てた。 「・・・君は・・・」 「私では不服そうだな、枢木スザク」 戦後放置されたままとなっている、ゲットーの地下鉄跡で、C.C.は仮面を外し、偽ゼロと対峙していた。偽ゼロは、名前を呼ばれた事に僅かに反応を示したが、肯定も否定も返さなかった。 「・・・そうか、だから、トラックの上のゼロに違和感を感じたのか・・・」 あの恰好で来るのは彼だけだと思っていたが、そうか、影武者だったのかと、偽ゼロは一人納得したような顔をしていた。何より、担いで運んだ時の重さと感触も別人で、一体どういう事なんだろうと不思議に思っていたのだ。 「ゼロに伝えてくれないか、こんな危険な事はもうするなと」 本来であれば、この場で直接言いたかったのだが、仕方がない。 「あれを止めたければ、殺す事だ。そうでなければ止まらない。言葉で止まるほど、あれの憎しみも絶望も軽くはないこと、お前は知っているのだろう」 「・・・君がゼロを演じたのは、彼の指示?」 都合の悪い内容だったのか、言っても無駄と解ったのか、偽ゼロは話題を変えた。 「いや、あいつはまだ夢の中だ。私が変わるといっても聞かなくてな」 「・・・無事なんだろうね」 「後遺症も何も残らない、とても安全な方法だよ」 コードを使って、強制的に落としただけだからな。 「今どこに?」 「私たちの、部屋にだ」 C.C.は口角を上げてにやりと笑った。 「・・・ごめん、今よく聞こえなかったんだけど・・・」 スザクは、仮面越しでもわかるほどの動揺を示した。 だからC.C.は、わざと笑みを深めて言った。 「わ た し た ち の へ や で ね て い る」 ゆっくりと、言葉を紡ぐ。 「・・・・騎士団の、アジトという事か」 「アジトの、私とあの男の寝室だ」 「!?」 「私たちは、将来を誓い合った仲だからな」 「!?」 偽ゼロは、今までで一番の動揺を示した。 やはりそうかとC.C.は目を細めた。 この男・・・狙っていたな、あいつを。 男同士ではあるが、あいつは男の枠に入らない容姿の持ち主だ。この手の輩がいてもおかしくはなかったが、まさかあいつが心許している親友までそうだったとは。 だが、これで私の勝ちだ。とC.C.は思ったのだが。 「悪いけど、僕たちも将来は誓い合っている」 「!?」 「7年前の夏の日にね」 「!?」 「彼は、僕の・・・僕と、ナナリーだけのものだ」 この瞬間。 偽ゼロと影武者ゼロは、互いを敵と認識した。 |